岡山県南西部に位置する【矢掛町(やかげちょう)】は、まだ知る人ぞ知る穴場の観光スポットですが、江戸時代から続くコンパクトに凝縮された中心街と、その周りに広がる里山の自然を同時に味わえる場所で魅力がたっぷり。「旧矢掛本陣石井家住宅」や「本陣通り」などで歴史に触れ、「石挽カカオissai」や「ときとま」などのおしゃれなお店で町の新しい風を楽しむ旅をしてみてはいかがでしょうか。
|歴史スポットは「本陣通り」周辺に
旧山陽道における宿場町のひとつとなっていた矢掛町。その歴史的な見所は、気軽に徒歩でまわることができるコンパクトな中心街に凝縮されています。その中でも、特に見逃せないスポットが「旧矢掛本陣石井家住宅」です。
矢掛町が大きく賑わいを見せたのは江戸時代のこと。参勤交代の際に宿場町として多くの大名がこの地を訪れました。旧山陽道の一部だった矢掛町のメインストリートは、現在では「本陣通り」と呼ばれています。
「旧矢掛本陣石井家住宅」は、そんな町の中でも最大規模の建物で、参勤交代の際に大名や公家、幕府役人の宿泊や休憩の場所として利用されていた場所。従者が利用した「旧矢掛脇本陣髙草家住宅」と共に、現在までほぼそのままの姿が残されています。本陣の内部は展示スペースとなっており、現地ボランティアガイドの方の説明を聞きながら見学できます。
▲天璋院篤姫も泊まったとされる「御上段の間」
▲石井家の家業は酒屋だったため、お酒に関する展示もあります
本陣以外にも本陣通りは歴史を感じるスポットで溢れています。例えば、本陣から4軒離れた場所にある「佐藤玉雲堂」は、1830年創業の老舗和菓子店です。
お店の名物である「ゆべし」は、もっちり食感が特徴的な蒸し菓子で、派手さはありませんが、滋味深く力が湧いてくるような素朴な味が魅力。現在は東北地方でよく見られる郷土菓子の一種ですが、かつては全国的に店舗があり、矢掛町では江戸時代からの製法がそのまま受け継がれています。西日本では柚子を使うものが一般的で、「柚べし」「柚餅子」と表記されることもあります。
このお店のゆべしは、天璋院篤姫が滞在した際に食べて大層気に入り、お土産に130本も買っていったという逸話が残っており、現在では矢掛町を代表する銘菓となっています。篤姫が絶賛したという味をぜひチェックしてみてくださいね。
|全体をひとつの宿として楽しめる町
町全体をひとつの宿として利用できるのが矢掛町の大きな特徴です。2018年には、イタリアの取り組みである「アルベルゴ・ディフーゾ」に認定されました。「アルベルゴ・ディフーゾ」というのは、地域に宿泊場所や食堂などが点在し、宿の機能を分散した町のことを指しています。宿泊は宿で、食事は食事処で、といった形で利用されるのは、かつての宿場町の楽しみ方とも似ている部分があります。
▲「矢掛屋 INN & SUITES」で味わえる宿場町ステイ
▲築200年以上の古民家に宿泊できます
2015年頃から「矢掛屋」の開業までは宿がなく宿泊できない町でしたが、現在では「矢掛屋 INN & SUITES」をはじめ、複数の宿が町に点在しています。「備中屋長衛門」は一日一組限定の貸し切り宿で、米蔵を改装した「蔵INN」は一人旅に適したシングルルームの宿と、さまざまな選択肢から自分の旅の形に合った宿を選ぶことができますよ。
▲入浴は温浴別館の「湯の華温泉」へ
▲食事は本館の食事処「花鳥風月」や、寿司処「ゆらり」などが利用可能
|新しい施設でも感じられる矢掛の魅力
矢掛町の魅力を感じられるのは、歴史あるスポットだけではありません。近年観光地としてさまざまな施策が行われている矢掛町には、注目のお店が多くあります。
そのうちのひとつが「石挽カカオissai」です。石材店を営むオーナーさんが、カカオを挽くための石臼を作ってほしいと注文されたことからこのお店が生まれました。矢掛町周辺はもともと石材の採掘地としても有名な場所。
店内には、ガーナやベネズエラなど、世界各地のカカオから作られたチョコレートが並んでいて、ほとんど全ての商品が試食可能です。余分なものは一切入れず原材料はカカオ豆と砂糖だけ、手間ひまをかけて作られた本格派のチョコレートは、どれもが個性的です。一般的に販売されているチョコレートとは一線を画すものばかりなので、チョコ好きの方はもちろん、苦手という方もぜひお試しください。
▲ホットミルクにチョコレートを混ぜて完成する「ホットショコラ」も人気のドリンクメニュー
▲スプーンにチョコが刺さったような形の「カップショコラショー」を買って帰れば家で本格カカオ体験が可能です
他にも、カフェにギャラリーが併設された「ときとま」も要チェックです。
矢掛町に移住したフジタマリさんによる木の雑貨が並ぶ店内。アクセサリースタンドや一輪挿しなど、木の優しい風合いが印象的な作品ばかりです。カフェでは、地域の旬の食材を活かしたスイーツや自家製のフルーツシロップのドリンクなど、見た目にも美味しいメニューが提供されています。なお、イートイン用のテーブルや椅子にもフジタマリさんが作った家具が使われていますよ。
▲小物からテーブルなどの家具までさまざまな商品がならびます
▲木の色の違いを上手く活かした寄木の美しさが特徴的
▲「さつまいも餡入りベイクドチーズケーキ」と「ピオーネソーダー」
老舗による新しいチャレンジにも注目です。60年の歴史を持つ「渡辺製麺所」が数年前から始めたのが「うどんどう」というイートインのサービスです。もともとは製麺所としてパックのうどんや蕎麦、うどんつゆなどを販売していましたが、製麺所の一部を改修してリニューアルされ、柔らかいのに歯応えのある不思議な食感の麺を手軽に味わえるようになりました。
▲岡山ならではの「たんわり(方言でまろやか、もっちり)」した食感のうどん
▲地元野菜を使った天ぷらも人気のメニューとなっています。
|町の周辺に広がる自然はレンタルe-Bikeで楽しもう
町の南側には小田川が流れており、中心街から少し離れるだけで豊かな自然が味わえるのも矢掛町の魅力です。手軽にその魅力を味わうのに便利な移動手段が、道の駅で借りることができるレンタルe-Bike。
▲レンタルe-Bikeは、現地決済型ふるさと納税の返礼品としても利用可能です
町の近くであれば、小田川沿いをゆっくりと走るのがおすすめのコースです。小田川は広島県東北部から岡山県西部へ流れている一級河川で、矢掛町の中心を東西に横断しています。のんびりと景色を楽しみながらのサイクリング時間を堪能できますよ。
中心街からは少し離れますが、電動アシスト機能搭載のマウンテンバイクだからこそ行ける場所としては、「地蔵岩ヤッホー公園」がおすすめ。巨大な地蔵岩がある山の中腹の公園ですが、中心街からは5kmくらいの距離。麓からはかなりの勾配がある坂道を上っていく必要がありますが、その分景色は抜群のスポットです。
▲巨大な地蔵岩に向かって「ヤッホー!」と叫ぶとこだまが聞こえることが公園の名前の由来
倉敷という人気観光地の近くということもあってか、まだまだ全国的には知られていない矢掛町。歴史あるスポットはもちろん、町には新しい風が入ってきていて、これから人気が高まっていくことは確実でしょう。まだ穴場の町で、あなた好みの楽しみ方を見つけてみてはいかがでしょうか。<text&photo:岡本大樹>
2023/12/08| TAGS: lifestyle
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