瀬戸内海の島々を舞台に展開される『瀬戸内国際芸術祭』。前回のvol.1のレポートに引き続き、今回お伝えするのは「豊島(てしま)」の旅。人口1,000人ほどのこの小さな島は、縄文時代からの遺跡が点在し、山々と棚田が広がっている。ここには、まるで地上の楽園に辿り着いたかと思えるような、静寂でゆったりとした時間が流れていた。
早朝、豊島の家浦港に到着して真っ先に感じたのは、この島を包む圧倒的な静けさと、ゆるやかな時間の流れ。時が止まったのではないかと思うほど、普段の私たちの日常からはかけ離れた「島時間」が流れている。すうっと息を吸って、深呼吸。これから出合う自然とアートの融合に期待がふくらむ。早速、直島で味をしめた電動サイクルをレンタルし、島の旅がスタート。
まず向かうは唐櫃(からと)地区。
ここではスイス人アーティスト、ピピロッティ・リストの映像インスタレーション『あなたの最初の色(私の頭の中の解-私の胃の中の溶液)』が、小さな蔵の中に展開されている。屋根裏部分を突き破って現れた円形のスクリーンに、チューリップや女性などが映し出された極彩色の映像が投影される。古い蔵の匂いと、アブストラクトな映像が相まって、どこか懐かしい感覚を覚える作品だ。
また、同じく唐櫃地区には、建築家・安部良氏が設計を担い、今年オープンしたばかりのレストラン「島キッチン」がある。 豊島の豊かな食材を用いて、シェフと島のお母さんたちの協同による料理がもてなされる。ビーチリゾートのような半屋外のテラスは、疲れた体をそっと癒す最高のくつろぎスポット。
続いて豊島美術館に向かうため、唐櫃地区から大きな坂を駆け下りていく。吹き抜ける風、青空、草木の匂い、そして一面の海、海、海! このまま海へとダイブするのではないかと感じる瞬間。ジブリ映画にでも登場しそうなこの絶景に、しばし目眩いを覚える。そうか、これこそが「地上の楽園」というやつか。
絶景に心を奪われるうちに、豊島美術館の入り口が見えてくる。ここには、更なる至高の空間が待っていた。まずはじめに指示されたルートに沿ってぐるりと美術館の敷地をめぐり、海を見下ろしながら木々に囲まれた楽園の景色を堪能する。そうして、心身共に静寂さと自然の息吹を吸い込んだ後、シェル状の構造をした建物の中へ足を踏み入れる。その瞬間、はっと息が止まった。
ここは、一体どこだ? 宇宙の果てか、はたまた生命の誕生した場所だろうか?
アーティスト・内藤 礼 氏の作品と建築家・西沢立衛氏の設計が見事に融合し、唯一無二の空間アートへと昇華された本美術館の内部は、言葉を失う世界が広がっていた。ドームの天井部にすっぽりと空いた大きな穴から、山の緑と青空が覗いている。足下を見れば、小さな水滴が床面の各所に浮かび、するすると穴の下にできた「池」に吸い込まれていく。聞こえてくるのは、鳥や虫の鳴き声ばかり。小さな物音がすぐさまドーム全体で聞こえるほど反響するため、数十名ほど居合わせた鑑賞者たちは、皆ひと言も声をもらさず、じっと、ただ静かに空間に身を委ねている。
こんな景色をかつて見たことはない。柱一本も存在しない緻密な建築構造、自然現象が織りなす美と音色、そこへアーティストが残した一片の「詩」が、ゆったりと体内に降りてくる。
ぜひ、人生に一度は体験してほしい美術館。こちらは常設のため、一年中いつでも楽しむことができる。
最後に、若手建築家、石上純也 氏による新プロジェクトの構想展「mountain project」の紹介でこのレポートを締めくくりたい。こちらは石上氏が豊島における自然の新たな体験方法を模索した構想展だ。
今後、3年後にも開催される『瀬戸内国際芸術祭』は、更なる進化を遂げているかもしれない。この先、まだ見ぬ自然とアートの融合に早くも期待が高まる。
瀬戸内国際芸術祭2013
秋会期:〜11月4日(月・祝)まで
http://setouchi-artfest.jp/
ベネッセアートサイト直島
http://www.benesse-artsite.jp
text & photo : Arina Tsukada
2013/10/31| TAGS: culture
lifestyle
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