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サーモグラフィーに見る新たな人間の姿

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Deep Lee, London, 2010 (from Portraits)

Deep Lee, London, 2010 (from Portraits)

不思議なカラーに包まれた人物のポートレイト。サーモグラフィーカメラで人々の「温度」を映し出し、新たな人間像を追求する写真家・平澤賢治氏。拠点とするロンドンにお邪魔して話を伺った。

「家族や親しい友人たちを撮影し、それらの記録を後世に残したいと考えています」

 そう語る平澤賢治さんがサーモグラフィーカメラと出合ったのは大学生の頃。慶應義塾大学環境情報学部でメディアの研究をする傍ら、研究のために利用していたサーモグラフィーカメラで友人たちを撮影したところ、独特の配色で写し出された「肉眼では見えない世界のポートレイト」にのめり込んでいった。何人もの友人を撮りため、次第に作品として発表する頃には、自ずと写真家への道を切り拓くことになる。当時、ファッション写真に興味を抱いていたこともあり、向かった先はファッションとアートの街・ロンドン。

Haruka Akagi, Tokyo, 2009 (from Portraits)

Haruka Akagi, Tokyo, 2009 (from Portraits)

Vincent Garnier, London, 2009 (from Portraits)

Vincent Garnier, London, 2009 (from Portraits)

「サーモグラフィーで撮影されたポートレイトや、実験的なアプローチで撮影された写真などが許容されるファッション写真に進もうと考えての渡英でしたが、気が付けばアートがとても身近な存在になっていました。ロンドンでは日常の中にアートが自然に存在していて、それが個人や社会に貢献し、役割を果たしている。そんなアートへと関心が次第に移っていきました。『アートとは何か?』——この問いかけに対し各々が答えを持っていると思いますが、それらは決して一致したものではありません。多様な意見の混沌、衝突、融合の中にアートの魅力があるのだと思いますし、人間の面白さ、可能性がそこにあります」

Queen Elizabeth II & Prince Philip (from Celebrity)

Queen Elizabeth II & Prince Philip (from Celebrity)

 長らく友人のポートレイトを撮り、そこに宿る「体温」を可視化させることで、人間の持つ生命力やその瞬間の見えない表情を写し続けた平澤さんだったが、あるときから「温度のないもの=Lifelessness(生きていないもの)」を撮るようになる。それが、マダム・タッソーの蝋人形館に展示された世界中のセレブの人形たちだった。

「生命とは何か、それは生と同時に死とは何かを考えることにも繋がります。そこで、生命の宿らない、生きていないセレブリティの蝋人形を撮影しようと考えました。また、撮影を通して蝋人形館という特殊な環境における新たな発見がありました」

 平澤さんの撮る写真には、真っ青なセレブの人形に寄り添う、何人もの人々の姿が写し出されている。連日多くの観光客でごった返す蝋人形館では、セレブたちの人形と記念写真を撮るひとが後を絶たない。はじめはひとが立ち去る機会を待ってカメラを構えていた平澤も、自然と観光客の交じった写真を撮るようになった。

Lady Gaga (from Celebrity)

Lady Gaga (from Celebrity)

「多くの人々が何時間も並び、実物ではなく蝋人形と記念撮影することに熱狂している。そのエネルギーに圧倒されました。セレブが大衆から愛されているということや、そこに至った社会的な動向、こうしたアイコン的な存在の意味を改めて考えるきっかけになりました。また、体温を持つ人間と、持たない人形とを同時に撮影したことで、生きているものとそうでないものの対比が明確になりました」

 サーモグラフィーカメラによって見出された平澤さんの作品は、「写真」というメディアの概念を覆すものとも言える。通常、カメラは光の反射によって見えている対象物を写し出すが、サーモグラフィーカメラは暗闇の中でも撮影可能であり、そもそも対象物自体から光が発せられていると言い換えることもできる。そこに、環境に左右されない「人間らしさ」が見出せるのではないだろうか。

 技術の応用によって新たな世界や視野を拡げてくれる平沢さんの作品たち。ぜひHPでチェックしてみて。

 

平澤賢治
1982年東京都生まれ。ロンドン在住。2006年に慶應義塾大学環境情報学部卒業後、スタジオ勤務を経て独立、渡英。東京、ロンドンで数々のグループ展に参加するほか、SHOWstudioでも活躍。2011年、写真集『CELEBRITY』(Bemojake)を発表し、ロンドンのギャラリーKK Outletにて同タイトルの個展も開催した。写真雑誌『PHOTOWORKS』、『GUP』の表紙に起用されるなど、現在注目を集めている。

www.kenjihirasawa.com

 

Text by Arina Tsukada
Photos: © Kenji Hirasawa 2013

 


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