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【うるおい女子の映画鑑賞/ギリギリで強くなる】『サンドラの週末』(白=仏=伊・2014年)

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身体と同様に、こころもエクササイズが必要。週に1本映画を観ることで、こころの筋肉をしっかりと動かし、“きれい”を活性化しませんか? そんな“きれいになれる”映画を毎週紹介する【うるおい女子の映画鑑賞】。

 

第13回のテーマは「ギリギリで強くなる」。ご紹介するのは、カンヌ国際映画祭で2度のパルムドール受賞暦をもつ、フランスの巨匠ダルデンヌ兄弟の最新作『サンドラの週末』です。『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』(2007年)でオスカー女優となったマリオン・コティヤールが主人公のサンドラを演じます。

 

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『サンドラの週末』 DVD発売中 ¥3,800(税抜) 提供・発売元:ギャガ株式会社 配給元:ビターズ・エンド 販売元:株式会社KADOKAWA © Les Films du Fleuve -Archipel 35 -Bim Distribuzione -Eyeworks -RTBF(Télévisions, belge) -France 2 Cinéma ※2015年12月26日現在

 

 

 

サンドラはギリギリの状態で生きています。映画の冒頭がまずギリギリMAXで、「この人大丈夫?」と本当に心配になるくらい打ちひしがれています。その理由はというと、サンドラは病気が完治して復職したばかりなのに、会社が「ボーナス」か「サンドラ」のどちらかを選ぶ投票を同僚たちに行わせ、その結果失業してしまったからです。

 

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【幼いこどもを2人抱え、レストランで働く夫とふたりの収入でギリギリの生活での突然の失業。そりゃこんな表情になる】

 

子供たちの前で平静を装うために、夫の制止を振り切って薬をのむサンドラ。彼女の休職の理由は、メンタルの問題だったということがわかります。友人の助けもあり、なんとか社長を説得して、週明け月曜日に再投票することが決まったけれど、同僚たちが自分よりボーナスを選んだという事実、出来レースを仕込んだ会社の理不尽なやり方に深く傷つき、再投票をしてもきっと同じ結果になるであろうと失意の底にいます。

 

そんな彼女に夫は「この週末に同僚ひとりひとりに会いに行って自分に投票してほしいと説得しに行こう」と提案します。

 

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【同僚をひとりひとり訪ね歩くと、当然ながらそれぞれ事情を抱えていることが痛いほどにわかる】

 

サンドラはギリギリな状態のまま、薬でなんとか冷静さを保ち同僚を訪ね、静かに「わたしを選んで」と同僚たちに話します。すでにボーナスの使い道が決まっていて家族に反対される人、彼女の味方になってくれる人、冷たい対応をする人、会社の圧力に怯える人・・・それぞれの事情が当然あり、サンドラは自分への投票をお願いしつつも、目の前で巻き起こる夫婦喧嘩や逆ギレといいった状況に、自分には彼らのボーナス以上の価値があるのか、という疑念に飲み込まれそうにもなります。

 

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【何度こころが折れても、夫の優しさでサンドラはなんとか前を向く。泣き言は夫の前だけ】

 

真っ青な顔をして(本当に倒れそう)何度も諦めそうになるサンドラを、夫は優しく、しかし、忍耐強く説得します。「物乞いするみたいで惨め」「同情されたくない」、そんな自尊心と、仕事を続けたいという思いの狭間でサンドラは苦しみながらも、同僚ひとりひとりの顔をみて自分の主張を冷静に話していきます。事情があってボーナスを選ぶという同僚にも、「気持ちも分かるから大丈夫」と伝えて、感情的に泣きつくようなことはせず、あっさり引き上げるのです。

 

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【小さな日常の小さな出来事が人のこころを動かしていることを知る】

 

 

 

いよいよ再投票の朝。長い長い週末は終わり、サンドラは夫の車で職場に向かいます。果たして結果は・・・?

 

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【倒れそうにギリギリの週末を越えて、職場に向かうサンドラの表情には強さがある】

 

そこでわたしたちが目にするのは、金曜日とはまるで別人のサンドラです。小さな小さな出来事かも知れません。だけど、わたしたちが生きる日常はその小さなことの積み重ね。そこで、人知れず心を痛め、もがき、ギリギリで冷や汗をいっぱいかいて、成長し、愛を育んでいます。サンドラもまた、彼女なりに精一杯闘いぬき、ギリギリの状況を乗り越えて突き抜けます。

 

 

 

日々、いっぱいいっぱいでそんな自分がイヤだなと思ってしまうものですが、みんな同じ。ギリギリでがんばって、弱音も泣き言も内緒でたくさん吐いて、ひざをがくがくさせながら問題と向き合って生きていく。映画はそんなことを肯定してくれて、エンディングのサンドラの姿は人間の強さを讃えていて感動的です。なにより、主演のサンドラの危うさと生命力を見事に演じたマリオン・コティヤールの演技が素晴らしい!

 

月曜日からのわたしたちの現実の小さな闘いひとつひとつと向き合う勇気をくれる『サンドラの週末』、今週末「おうちシネマ」にいかがでしょうか?

 

 

text:kanacasper(カナキャスパ)(映画・カルチャー・美容ライター/編集者)
編集を手がけた韓国のカリスマオルチャン、パク・ヘミン(PONY)のメイクブック『“かわいい顔”はつくるもの! 秘密のオルチャンメイク』(Sweet Thick Omelet/DVD付/¥1,500・税別)が好評発売中。こころもからだも豊かに美しくしてくれる日々の”カケラ”をブログで収集中。
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