身体と同様に、こころもエクササイズが必要。週に1本映画を観ることで、こころの筋肉をしっかりと動かし、“きれい”を活性化しませんか? そんな“きれいになれる”映画を毎週紹介する【うるおい女子の映画鑑賞】。 第12回のテーマは「魂震えてますか?」。
努力、忍耐、苦悩・・・昨今、世の風潮から肩身の狭い思いをしているこれらのワードですが、久々にスポコン魂のこもった映画を観ました。でも、スポーツものでも、学園ものでもありません。泥にまみれてボールを拾っては投げている人々は、フランス、パリにあるディオールのアトリエにいました。そう、超一流メゾンのクリスチャン・ディオールの、です。
紹介するのは『ディオールと私』。2012年、オートクチュールの経験が無いままディオールのアーティスティックディレクターに就任したラフ・シモンズの初コレクションまでの8週間の舞台裏に迫ったドキュメンタリー映画です。
『ディオールと私』 DVD発売中 ¥2,800(税抜)(通常版)/¥3,800(税抜)(エレガンス版) 提供:オープンセサミ/東急文化村 販売:アルバトロス (c)CIM Productions ※2015年12月19日現在
通常、コレクションの準備期間は約半年間といわれていますが、ラフ・シモンズに与えられた時間はわずか8週間。しかも、ジル・サンダーでクリエイティブ・ディレクターを務めていた彼にはプレタポルテ(既製服)の経験しかなく、オートクチュールは初体験です。
相当切羽詰まった状況であることは誰の目にも明らかですが、カメラが追うラフは飄々とした様子。アトリエへ出向き、オートクチュールを支える職人(いわゆる”お針子”ですが、プロ中のプロ!)たちの前で堂々と挨拶をこなします。 ところが部屋を出て、エレベーターの扉が閉まった途端「ああ!プレッシャーが重過ぎる」とラフは声を震わせるのです。
この映画は、新任デザイナー ラフ・シモンズと、メゾンの心臓部であるアトリエの職人たちとの激闘の8週間を追った映画です。
【作業着にルブタンの靴でミシンを踏むファッショニタの職人も!それぞれに個性的なキャラだけど、ファッションを敬愛する熱意は同じ】
職人のなかには40年以上ものキャリアをもつ人もいて、デザイナーは変われどアトリエには、クリスチャン・ディオールのDNAが色濃く脈々と受け継がれています。今回も、新任デザイナーのミリ単位での要望に、叩き上げの経験と知識をフル稼動させて全力で応えていく精鋭たち。
一方、常に穏やかな口調と振る舞いのラフですが、こうと決めたら絶対に曲げないし、言いにくいことも躊躇無く口にしていきます。コレクション前日に、ドレスのデザインをほぼ修正させるときも、挨拶かと思うほどに軽やかな口調。
【マイペースかつ穏やかな口調で、職人への無茶ぶりや予算度外視の突飛なアイディアの提案をするラフ】
ラフと職人のやりとりは、たとえばこんな調子です。
白いジャケットを手に「明日までにこれの黒をつくれる?」と無邪気に言い放つラフへのストレスでグミをどか食いする職人(この無茶振りには通訳すら口ごもっていた)。
すでに「無理です」と業者にきっぱり断られた布地へのプリント。「最終的にダメだったとしても、ぼくはかんしゃくは起こさないよ。ただ最後まであきらめない。さ・い・ご・の・さ・い・ご・まで、ね!」と穏やかな口調でものすごい圧力をかけるラフに呆然とする担当者(映画の最後にはやつれていたな)。
怒りがこみ上げても、顔面蒼白になっても、ここには「できない」と言う人はいません。
【「丈をもうちょっと短く」というラフのイメージをその場で具現化していく職人。デザインが有機的に組み立てられていくプロセスは刺激的】
また、ラフのインスピレーションはデザインだけには留まりません。
自らコレクション会場を選んだパリ市内の豪邸の壁に、100万本の生花を飾り付けたいと突如提案します。予算を度外視した、しかし、インスピレーションに溢れているこの魅力的な提案に、「○○会長と○○会長が気に入ってくれれば・・・」合言葉のように唱えうなずき合う関係者たち(このオールor ナッシング感で周りを巻き込んでいくところがすごい)。
とまあ、その才能ゆえに浮き世だっているラフなのですが、感性を研ぎ澄まして、子どもように自由に発信し、自らのビジョンに向かって猪突猛進していく様は「さすが天才! 心臓に毛でも生えているのだろう」と思わされるほどに痛快なのです。
ところが映画の後半、わたしたちは、映画の冒頭のエレベーターの中でだけちらりとみせた、彼の本当の姿を再度目撃します。コレクションを冷静に力強く引っ張っていくその裏で、実は膝をガタガタと震わせながらギリギリの精神状態だったことが明らかにされるのです。
【華やかなファッション業界の裏で巻き起こるドラマ。映画が映すのはプロ同士の壮絶な真剣勝負!】
ファッション業界というと過剰にドロドロした世界という印象が、昨今テレビドラマの影響で大きいですが、この映画では純粋に洋服が好きで、ディオールというメゾンで働くことに誇りをもった人々が、強い個性のリーダの元、それぞれの立場で全力投球する清々しい姿が描かれているのです。その魂のぶつかり合いは心が震えるほどに感動的!「またラフが言ってるよ」なんて文句をいいながら、睡眠時間を削りながらも全員が同じゴールを目指しているという、ピュアで、泥くさく、有機的なこの世界はまさにスポコン!
ディオールの全面協力ということで、通常カメラが入ることのでいない場所や、貴重な衣装、コレクションまでの裏舞台は美意識をくすぐるのはもちろんのこと、同時に「わたしも彼らみたいに、本気で生きて魂を震わせなきゃ!」と元気をもらえる本作。今週末「おうちシネマ」にいかがでしょうか?
text:kanacasper(カナキャスパ)(映画・カルチャー・美容ライター/編集者)
編集を手がけた韓国のカリスマオルチャン、パク・ヘミン(PONY)のメイクブック『“かわいい顔”はつくるもの! 秘密のオルチャンメイク』(Sweet Thick Omelet/DVD付/¥1,500・税別)が好評発売中。こころもからだも豊かに美しくしてくれる日々の”カケラ”をブログで収集中。
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2015/12/19| TAGS: culture
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