身体と同様に、こころもエクササイズが必要。週に1本映画を観ることで、こころの筋肉をしっかりと動かし、”きれい”を活性化しませんか? そんな”きれいになれる”映画を毎週紹介する【うるおい女子の映画鑑賞】。第16回のテーマは、「敵は自分のなかにいる」です。
いよいよ今年のアカデミー賞(R)のノミネーションが発表され、2月29日(日本時間)の授賞式にむけて盛り上がってきました! 毎年、ドラマが生まれるアカデミー受賞式ですが、5年前の2011年ナタリー・ポートマンの主演女優賞受賞もドラマチックで記憶に残っています。彼女が主演した映画『ブラック・スワン』は、衝撃的でスリリングで世界をあっと驚かせた秀作です。ナタリー自身の”優等生キャラ”が主人公と絶妙にリンクして、彼女が精神的にぶっ壊れていく姿がそれはそれは怖かった・・・・・・。役柄と同様、女優ナタリー・ポートマンが一度壊れて死んで、見事に昇華された必見の一作です。
お正月気分を引きずってカロリーオーバーが続く自分を戒めたい!いやいや、今年こそ日々の努力を継続して目標に到達したい!通俗でも高尚でもどちらでもいいのですが、がんばるあなたに「敵は自分のなかにいる」というテーマで『ブラック・スワン』をオススメしたいのです。
『ブラック・スワン』ブルーレイ発売中 ¥1,950(税抜) 発売・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント (C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. ※2016年1月23日現在
|母親からの夢を託された優等生バレリーナ
元バレリーナの母親の期待を一身に背負い、幼い頃からバレエ一筋で生きてきた生真面目なニナ(ナタリー・ポートマン)。そんな彼女が、所属するニューヨークのバレエ団でついに、「白鳥の湖」のプリマに抜擢されます。
【見事”バレリーナの身体”をつくり上げたナタリーの女優魂が絶賛された】
「白鳥の湖」という演目は、純真無垢な白鳥と邪悪で官能的な黒鳥とを一人二役こなさなくてはいけません。優等生タイプのニナは、白鳥こそ正確に演じることができますが、情熱的な黒鳥を上手く表現できず、監督トマ(ヴァンサン・カッセル)には「性的な喜びを追求しろ」と言われてしまいます。
【ニナに足りないものは”色気だ”!とセクハラでダメ出しする監督トマ】
|自分には無いものを持つ女
そんななか、ニナの前に代役の新人リリー(ミラ・クニス)が現れます。彼女が持つ奔放で官能的でのびやかな表現力をトマも絶賛。自分とは対極の魅力をもつ彼女がプリマの座を狙っているのではないかと、ニナのパラノイアはじりじりと加速していきます。リリーの何気ない発言や、カンパニー内でのちょっとした嫉妬にもニナは過剰に反応をするようになり、次第に妄想は激しくなり現実との境目が無くなっていきます。
【踊りも性格もニナとは正反対のリリー。奔放な彼女の言動にニナの被害妄想が加速する】
【「監督と寝てプリマの勝ち取ったんでしょ!」とニナを罵倒する前プリマ役にウィノナ・ライダー。なんと絶妙な配役!こわいよ!】
|押し殺してきたものはなに?
(※以下、一部ネタバレ要素を含みます)
ニナがリリーに過剰に反応するのは、彼女の奔放さ、性的な魅力、悪の香りといった自分には無いものを持っていて、実はそれらに強烈に惹かれているから。そして皮肉にもそれらは、優等生ニナが”いけないもの”として押し殺してきたものなのです。なぜ、押し殺してきたのかというと、その理由は母親にあります。元バレリーナの母親がバレエを諦めたのは、娘であるニナが生まれたことが原因です。だからニナはそのことに無意識に罪悪感を感じていて、母親が望む清らかな娘を一生懸命演じてきました。彼女は知らず知らず、母親にコントロールされていた自分との決別に向かうのです。
【いったい何が彼女を苦しめているのでしょうか?】
この映画はそれはそれは秀逸な、神経衰弱的な心理サスペンスです。そして、解釈の仕方も観る人によってまちまちだと思います。じりじりと指先の切り傷をえぐられるような、自分のなかにもあるけれど見たくない”狂気”を見せられているような、居心地の悪い映画です(もちろん、いい意味で)。ニナは苦しんでいるのですが、その理由を”外”に探しています。なので周りを攻撃し始めます。監督トマの「君の道をふさぐ者は君自身だ」という言うことばも届かず、自分自身の”闇”を他者に投影してどんどん悪循環に自分を追い詰めてしまうのです。
【「現実」か「妄想」か。劇中、”鏡”が重要な役割を果たしている】
|敵は自分のなかにいる
映画はニナの視点で、彼女のパラノイアを観客にそのまま体験させるので、途中から、これが現実なのかニナの妄想なのかはっきりとはわからなくなってきます。彼女はおかまいなしに、他者を(実は、つまりそれは自分自身なのだけれど)を傷つけて、血を流しながら「黒鳥を完璧に演じる」というゴールをただただ目指していきます。その姿は鬼気迫るというよりむしろ狂気。ハッピーエンドなのか、はたまた悲劇なのか、観た人全員に聞いてみたいくらいに衝撃的なラストを迎えます。
【はたしてニナは黒鳥を完璧に演じきれるのか】
ナタリー・ポートマンのイっちゃった演技が珠玉なのですが(というかこんなにメンタル弱くてよくプリマになれたな)、ここまで狂気的に何かに執着して血の滲むような努力をすることで生まれる凄みの放つ美しさには、恐怖を抱くほどに圧倒されます。そしてそこで”何と”闘うのかというアティチュードが一流と二流を決めるのだなと、極限の世界の奥義みたいなものにあやかれる一本。背筋がキリっとして、ちょっと食欲が無くなるはず。
何か目標に向かうとき、価値観の主軸を自分にしっかりと置かないと、まわりが気になって人と比べたり、だめな自分を周りのせいにしてしまうことってありますよね?
だけど本当に対話すべきなのは自分自身で、闘うべき相手も自分自身の甘えやだらしなさ。そして、そもそもその目標も自分が設定したものなのか?誰か他人の価値観の刷り込みなのでは?ということを、『ブラック・スワン』を観た3日後くらいには考えさせられます(それまでは平手打ちされた気分で放心状態)。今週末、こころして「おうちシネマ」にいかがですか?
text:kanacasper(カナキャスパ)(映画・カルチャー・美容ライター/編集者)
編集を手がけた韓国のカリスマオルチャン、パク・ヘミン(PONY)のメイクブック『“かわいい顔”はつくるもの! 秘密のオルチャンメイク』(Sweet Thick Omelet/DVD付/¥1,500・税別)が好評発売中。こころもからだも豊かに美しくしてくれる日々の”カケラ”をブログで収集中。
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2016/01/23| TAGS: culture
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