【うるおい女子の映画鑑賞】 第64回『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014・仏)
「女性」の視点で映画をみることは、たとえ生物学的に女性じゃなくても日常では出会わない感情が起動して、肌ツヤも心の健康状態もよくなるというもの。そんな視点から今回は官能的でスリリングで不思議と滑稽な秀作『ボヴァリー夫人とパン屋』(2014・仏)を紹介します。
|ストーリー
父親の後を継ぎ、故郷のノルマンディーでパン屋を営むマルタンは、退屈な田舎暮らしのなかでフローベールの「ボヴァリー夫人」を読んではその世界に浸っていた。すると、隣にイギリス人夫婦のチャーリーとジェマが越してくる。驚くことに彼らの苗字は“ボヴァリー”。
マルタンは、若くて美しく肉感的な色香を放つジェマに強烈に惹かれていくが、彼女が年下男との不倫に身を投じて行く様を目撃すると、いよいよジェマと小説の中のボヴァリー夫人を重ね合わせ、マルタンの妄想に拍車がかかる。
|メロドラマを最高にお上品な味付けで
ストーリーを簡単にまとめると、若くて美しくてセクシーでオーガニックな魅力満載の女性が、結婚に100%満足できずにあちこちで情事に興じて身を滅ぼすという話。
だけどこの映画がメロドラマに留まらず一歩優れているのは、それを当人たちではなく、小説マニアの初老のパン屋目線で描いていること。そして、下品の2〜3歩くらい手前(わりと上品なのだけど、なんか笑える)の絶妙な官能表現が随所に散りばめられ、詩的なスリリングさとともに過剰になることで、それがコメディになっているという極上のエスプリの効いたコメディにできあがっているというところにあります。
|スキだらけのぽっちゃり女の“男を虜にするコツ”
ジェマ・アータートン演じるジェマの肉感的な色っぽさと若さ特有のおおらかさは、妄想好きのインテリなパン屋に限らず、男たちの妄想を掻き立てていきます。女目線でもそれが十分に納得できるほど、ジェマはエロさとスキに溢れています。
パン屋でパンの匂いを胸いっぱいに吸い込み官能的な吐息を吐く。いかにも英国風なシャツワンピースのボタンがなんとか閉じ込めているふくよかな肉体。夫とともに移り住んだ外国でカタコトのフランス語を一生懸命話そうとする姿。そういった彼女の仕草や出で立ちが男たちに官能的に働きかけ、溢れるスキが「もしかしたら押したら落ちるかも?」と思わせる余白を生み出すのです。
そのすべてが幸せな恋愛に発展するのかといえばそうではないですが、ジェマには“モテ”に必要な重要要素がたっぷり。しかも狙っていない(ように見える)のがまた凄いところ。「スキがないんだよね」と言われたことのある女性こそ、一度ジェマをよーく観察してみると“男を虜にするコツ”がきっと見えてくるはずです。<text:kanacasper(カナキャスパ)>
2019/05/30| TAGS: kanacasper
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