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古くからの湯治文化が残る宿【大沢温泉湯治屋】で築200年を超える建物に泊まる

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湯治屋の客室は6畳と8畳が中心で、素泊まりが基本です(食事は別料金)。湯治のために長逗留するお客さん向けに料金が設定されていて、部屋のみ予約した場合は室料が安い分、布団や浴衣、タオル、こたつほか、歯ブラシなどのアメニティは全て別料金です。その分、布団やこたつなど必要な物や備品は全て持ち込むことが可能。逆に考えれば、持参すれば安く泊まれる仕組みです。長期間宿泊する湯治客のために考案された合理的な仕組みで、今ではごくわずかになりましたが、東北地方にはこうした湯治宿が古くからありました。

 

▲今回泊まった客室は8畳の角部屋

 

部屋は角部屋で、広縁の窓からは豊沢川と曲り橋が眺めらます。また写真右手の窓は露天風呂に向いていて、夜は女性専用時間があるため、暗くなってからは障子を開けないようにします。テーブルはこたつ(暖かく使う場合は有料でコードを借ります)を使い、プランについている布団一式は客室の隅に畳まれていました。洗面と男女別のトイレは共同利用です。

 

▲レトロな茶だんすと薄型テレビが置かれます

 

広縁には冷蔵庫が置かれ、自炊用の食材が入れられるに中型サイズのワンドアタイプでした。

 

▲部屋からの眺望

 

客室の位置によって眺望は異なりますが、この客室からは豊沢川にかかる名物の「曲り橋」がよく見えました。橋は宮沢賢治も渡ったそうです。

 

▲部屋の内鍵。今では目にすることがなくなったネジ式の鍵が襖についています

 

客室(若葉荘をのぞく)は外鍵がなく、内側から回して閉める「捻子(ねじ)締まり鍵」のみ。そのためお風呂や食事など部屋を離れるときは施錠できないので、貴重品が気になる方は帳場(フロント)に預けます。

 

▲浴衣は有料でレンタルです

 

浴衣つきのプランもありますが、今回宿泊したプランにはないので220円で借りました。

 

|宮沢賢治も湯浴みした露天風呂

 

3棟ある建物には大浴場が6か所あって、そのうち湯治屋には混浴露天風呂の「大沢の湯」、女性専用露天風呂「かわべの湯」、男女別の内風呂「薬師の湯」があるほか、湯治屋の宿泊客は山水閣にある「豊沢の湯」も利用できます。※菊水舘の内風呂「南部の湯」は現在休館

 

▲豊沢川に張り出すようにもうけられた混浴露天風呂「大沢の湯」 <画像提供:大沢温泉>

 

湯治屋にある「大沢の湯」は、宮沢賢治も幾度となく利用したお風呂です。古くからの混浴露天風呂で、女性専用の脱衣場を備えます。広い湯船は100%掛け流しで、目の前には豊沢川の流れや山々が広がって開放感抜群。とはいえ、男性の視線や曲り橋を散策する人も気になるため、女性が安心して入浴できるように20時から21時まで女性専用時間を設けています。<利用時間:5時~24時 女性タイム:毎日20時~21時>

 

▲女性専用露天風呂「かわべの湯」 <画像提供:大沢温泉>

 

女性も気を使うことなく露天風呂を楽しみたいという声に応えて2007年に誕生した「かわべの湯」。眺望を愉しみながらいいお湯を源泉掛け流しで楽しめます。<利用時間:6時~24時>

 

▲男女別の大浴場「薬師の湯」 <画像提供:大沢温泉>

 

「薬師の湯」は男女別の内湯で、タイル張りのレトロな湯船は昔懐かしい雰囲気です。洗い場は3箇所あって、そのうち2箇所にシャワーを設置。脱衣場にはドライヤーも用意します。ふたつの湯船は掛け流しの熱めとぬるめで、身体の芯までじっくり温まりました。<清掃時間以外は24時間利用可能>

 

▲山水閣にある「豊沢の湯」 <画像提供:大沢温泉>

 

湯治屋の宿泊客も利用できる男女別の半露天風呂。洗い場も多く、脱衣場にはドライヤーが用意されるなど、利用しやすい浴場です。※浴槽が大きいため循環併用の掛け流しです。

 

|必要なものが何でもそろう売店

 

館内には、長逗留する人のためにほぼ何でもそろう売店があります。手ぶらで訪れたとしても、必要なものは売店で全て手に入れられるほどの品ぞろえ。一度お店をのぞいてみてください。

 

▲種類豊富な品ぞろえ

 

観光土産のお菓子の詰め合わせはもちろん、自炊用の食材やドリンク類、日用品まで様々な商品がそろいます。営業時間は7時~21時まで。

 

▲サランラップや爪楊枝、マイ洗面器まで売られていました

 

▲自炊客向けに缶詰やレトルト食品、ちょっとした調味料などもありました

 

|宿泊客が使う自炊場

 

古くからの湯治旅館でしばしば見かけるのが、共同の自炊場。大沢温泉では泊まり客や長逗留する人のために窓のある明るい自炊場を備えます。電子レンジやトースター、鍋類や食器類が自由に利用できました。

 

▲窓のある明るい自炊場

 

▲レトロなガスコンロ

 

1回10円で7分から8分使える課金式のガスコンロ。説明には「拾円(じゅうえん)」の文字があるので、ずいぶんな古さと思われます。

 

|食堂では朝夕の食事も可能

 

自炊をしない方のために食事処「やはぎ」があります。夕食は予約なしでも利用できて、定食や麺類などメニューも豊富。生ビールや日本酒などのアルコールもありました。今回は朝夕ともに食事処でいただきました。

 

▲お食事処「やはぎ」

 

夕食には「ひっつみ定食」をいただきました。岩手県の郷土料理 “ひっつみ汁” が大きなお椀によそわれて、ご飯替わりのいなり寿司と小鉢、お新香、デザートのムースがついた定食です。この日の小鉢は蓮根のそぼろ和えで、いなり寿司も大きく、食べ応えがありました。

 

▲岩手の郷土料理「ひっつみ定食」 ¥1,200

 

“ひっつみ” とはちぎるの方言で、水で練った小麦粉をちぎって鍋に入れた汁物です。こちらのひっつみは珍しく、丸くて薄く雑穀入りで、もちっとした食べ応え。醤油ベースに塩味を加えたスープで、大根など野菜もたっぷり入っています。雑穀が入っているのでプチプチした食感も楽しめます。田舎料理といった味つけで、とても美味しくいただきました。

 

▲大きなお椀の「ひっつみ汁」

 

▲客室が並ぶ廊下には、個々の部屋から障子を通して柔らかな明かりが漏れ、温かみを感じる光景でした

 

|朝食もお食事処でいただきました

 

お食事処「やはぎ」の朝食は、チェックインのときに予約します。営業時間は7時30から9時までで、定食を用意します。この日は鮭の塩焼きやきんぴらごぼうの小鉢、日替わりの漬物は大根の甘酢漬け。お味噌汁には麩海苔、ネギ、麩が入っていました。ご飯は地元花巻産のひとめぼれで、お代わり無料です。田舎の古い旅館でいただく、素朴な味の朝食です。

 

▲朝定食 ¥800

 

▲こんなガラス戸がある宿も、出会う機会が少なくなりました

 

観光旅館とは宿泊スタイルが大きく違う【大沢温泉 自炊部 湯治屋】。江戸後期築の建物ももちろんですが、長逗留する湯治客のために考えられた独特の仕組みが今も残る温泉です。今ではとても少なくなった、日本ならではの湯治文化をこの宿で体験してみてくださいね。<text&photo:湯川カオル子 予約・問:大沢温泉 自炊部 湯治屋 https://www.oosawaonsen.com/touji/


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