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【思考をキレイにする旅の仕方(467)】修行僧との歩行旅(後編)

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|修行僧との歩行旅(後編)

 

若い修行僧の半生を聞きながら400キロの歩行旅の途中、スーパー銭湯を見つけ、入ることを提案したら急に歯切れが悪くなった前回の続きです。

 

彼は、どうやらタトゥが入っているらしい。

 

「いや、行きましょう!隠せば大丈夫ッス!」

 

私の落胆具合に気を遣った彼は、そう言って先に入っていきました。

 

慣れている様子に、腕のタトゥを隠す専用サポーターでも持っているのかなと思いながら、後からついていくと、脱衣所で彼はロッカーに背中を向け、不自然な体制で脱ぎ始めます。

 

「ひょっとして背中?」

 

そう聞くと、彼は申し訳なさそうに、ちらっと見せてくれました。

 

背中には十字架とキリストが描かれています。

 

修行僧なのに。

 

 

裸になるとロッカーに背中を向けたまま移動を始め、壁にも背中を向けたまま浴場に入っていきます。

 

私は唖然として見送りました。

 

もし、問題が起きたら一緒に謝って、すぐに出ようと覚悟してから後を追います。

 

 

しかし、浴場に入ったはずの彼の姿が見当たらない。

 

彼は洞窟風呂の一番奥で顎までつかっていました。

 

まるで映画「地獄の黙示録」で沼から顔を出すマーロンブランドのように。

 

「ここなら誰も見えないから大丈夫ッス!適当にあがるッス!」

 

私は長風呂なので休憩室集合だけ約束して別れました。

 

 

汗を流し、露天風呂はじめ様々な風呂に浸かり、湯船の中でストレッチするなど身体を癒した後、洞窟風呂に立ち寄ると、まだ彼がいたのです。

 

出ようと思ったら、次々に人が入ってきてタイミングを逃したらしい。

 

「タトゥを選択した男の覚悟っス」

 

やっとの思いで上がったゆでだこ状態の彼を見ながら、私は涙を流して笑いました。

 

 

未だに洞窟風呂を見かけると、彼を思い出しほほ笑んでしまいます。

 

ちなみに彼は徒歩旅の直後、寺には戻らず、そのまま行方不明になったらしい。

 

元気で暮らしていることを願っています。<text:イシコ


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